よくある疾患シリーズ 〜甲状腺機能低下症〜 その症状、甲状腺の病気かもしれません。

こんにちは。

この間、診察した患者様の話です。
本当に多彩な症状で受診された方がおられました。
一見関係ないような症状が複数あり
1ヶ月という比較的ゆっくりな経過ですが、どんどん悪化しておられました。
ひとつひとつの症状が御本人にとっては
さほど強くなく
ご多忙なのでなかなか受診につながりませんでしたが
ご家族の強いススメで受診に繋がりました。


覚えのない部位の筋肉痛
皮膚の荒れ

寒がりになった
抜け毛が増えた
家族から『呂律が回ってないような話し方になり声がかわった。』『手が大きくなった』と言われた・・・

ダイエットもされていたので
体重の増減もあり
すべての症状は筋トレによるダイエット効果?副作用?なのかと本人も思っていたようです。

いろいろお伺いしているうちに
実は私も
いろいろな疾患が鑑別に上がり
ひとつづつチェックしていく必要があるなと思っておりました。
これは、腰をすえて
鑑別して行かないといけない。。。
まずこの疾患を、この検査でルールアウトして
次はこの疾患ではないか考えて、、、
とあれこれプランを練っておりましたが

翌日、外注していた
採血が返ってきて・・・
ある項目に
「あっ!!!」と声をあげてしまうほどの数値の異常がありました。

それは『甲状腺機能低下症』という疾患でした。

今、初診のときのカルテをふりかえると
すべての症状が
この疾患で説明がつきました。
(実際はもっとたくさんの症状をおっしゃっていましたので、関係のない症状もありました。)

すぐに御本人に電話をして
クリニックに来ていただきご説明をしました。
現在その方は、専門医にご紹介し、速やかに加療を始めておられます。
ほどなく安定していかれると思います。

紹介状

 

 

その目で診ると
なんで最初からわからないのだろうというほどに
典型なんだけど
典型が何かわからないほどに
多彩な症状を呈する
『甲状腺機能低下症』・・・・

甲状腺疾患は
忘れた頃に、フッっと
出会う
医師にとっても、ちょっと『お!!』と思う
鑑別の中に忘れたらいけない疾患の一つです。

そんなわけで
今日のテーマは甲状腺機能低下症を取り上げたいと思います。

 

ところで・・・

よくある疾患シリーズ/よくある症状シリーズは
自分がその時々で
拝診した患者様のこと
調べたタイミングなんかで
発信しているので
一巡するのは、いつになるんだろう?と思われるかもですが(私も思ってます(笑))
気長にお付き合いいただけたら嬉しいです。

もし
この内容のブログをあんな先生書いてるかな?
って思われたら
手前味噌ですが
『やまもとよりそいクリニック』のウェブサイトで
検索窓にキーワードを入れて頂いて検索頂いたら幸いです。

●当院ウェブサイトから→こちら

やまもとよりそいクリニックの検索窓

 

●携帯からは

携帯から 検索窓 やまもとよりそいクリニック

こんな感じで見えていると思いますので
よろしくお願いいたします。

 

さて改めて、甲状腺とは?から見て行きましょう。

●甲状腺とは?

甲状腺という臓器はご存知でしょうか?
聞き慣れない臓器だと思います。

甲状腺は、
首のところにある臓器で
『甲状腺ホルモン』というホルモンを出しております。

甲状腺

●甲状腺ホルモンって何をしているのでしょうか?

一言でいうと
『頑張るためのホルモン!』『元気が出るホルモン』
という印象でしょうか?

もう少し具体的に見てみると
甲状腺ホルモンは、大きく分けると次の3つの働きがあると考えられています。

●新陳代謝を盛んにする
脂肪や糖分を燃やしてエネルギーに変える作用があります。(体温を生み出します。)

● 自律神経のうち、交感神経の働きを活発にする作用があります。
自律神経の中には、交感神経と副交感神経があります。
簡単に言うと、交感神経というのは、運動会で走る前の緊張状態を思い出してみてください。
あの状況を作り出す神経というのでしょうか?
脈がドキドキ(頻脈)血圧が上がり、尿意はなくなり(トイレに行っている場合ではない?)・・・・
甲状腺ホルモンはそのような「頑張るときの」状態を生み出します。

●成長や発達を促進する
もう一つ、甲状腺ホルモンの大事な働きは
子どもたちの正常に成長、発達を促すという点です。

甲状腺ホルモンには、
● 4つのヨウ素を含むサイロキシン(T4)
● 3つのヨウ素を含むトリヨードサイロニン(T3)
の2種類があります。
甲状腺では主にT4が作られますが、肝臓などで活性型のT3に変換されることでホルモンとしての働きを発揮します。

●では、甲状腺ホルモンはどうやって分泌調整されているのでしょうか?

だいたいのホルモンがそうですが
甲状腺ホルモンの分泌量の調整は
脳でコントロールされております。

脳の下垂体から
甲状腺刺激ホルモン(TSH)というものが出て
甲状腺から甲状腺ホルモンを分泌するように促しています。

甲状腺ホルモンが不足してくると
『足りませんよ〜』というフィードバックが脳に働きます。(ポジティブフィードバックといいます。)
その結果脳(下垂体)からTSH(甲状腺刺激ホルモン)が増加して甲状腺を刺激します。

逆に、甲状腺ホルモンが何らかの理由で増えすぎると
『出すぎですよ〜』というフィードバックが脳に働いて
脳(下垂体)から出るTSHの分泌は抑えられます。(ネガティブフィードバックといいます。)

 

実はこの脳下垂体から出るTSHの分泌は
脳の中でももっと上位の中枢である
今度は『視床下部』というところから出る
甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)によってコントロールされています。

甲状腺ホルモンの調節

 

 

内分泌の疾患というのは
このように
ポジティブ/ネガティブフィードバックを受けながら
適正な量のホルモンを各臓器から放出するシステムのどこかが
不具合を起こす疾患です。

 

 

 

●甲状腺の病気にはどんな物があるのか

さて、ざっくりいうと、この甲状腺から出る甲状腺ホルモンが

・出すぎていたら→甲状腺機能亢進症
・出なさすぎていたら→甲状腺機能低下症→今回はこちら

という状態です。

でもこれは『状態』を表しているだけでその理由は様々です。

 

甲状腺機能低下状態を起こす疾患は?

上記のように
甲状腺の機能低下症(状態)を起こす疾患は様々です。

大きく分けると、甲状腺機能低下症には以下の2つがあります。

・原発性
続発性

●原発性甲状腺機能低下症


甲状腺自体の病気によって起こるものです。

  • 橋本甲状腺炎自分で自分の甲状腺を攻撃してしまい、甲状腺が徐々に破壊される疾患です。
    自己免疫性疾患の一つです。

  • 甲状腺の炎症(甲状腺炎):ウイルス感染など

  • 甲状腺機能亢進症甲状腺がんの治療による低下:お薬や手術で摘出、放射線の照射などによるダメージ

  • ヨウ素不足:甲状腺ホルモンの元となる要素の不足

  • 遺伝性の病気(まれ)

●続発性(二次性)甲状腺機能低下症

甲状腺の分泌を促している
甲状腺刺激ホルモン(TSH)や 甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)が
十分に分泌されないものを指します。

 

★上記の分泌調整の項目をご参照いただけたら幸いです。

甲状腺機能低下症の診断

さて、診断はどうやってつけられるのでしょうか?

基本的には
『採血』で診断がつきます。
・甲状腺ホルモン
・TSH TRH
・炎症反応
・自己抗体
などを調べていきます。

 

甲状腺機能採血

上記のように、甲状腺機能低下症を引き起こす疾患は様々ありますので
その鑑別のためには
甲状腺のエコーを行ったり
脳を調べたりすることもあります。

甲状腺エコー

 

 

甲状腺機能低下症の症状

甲状腺ホルモンはたくさんの働きをしているので
出過ぎでも、出なさすぎでも
本当に多彩な症状が出ます。

甲状腺ホルモンが出ない場合の症状としては
上記のような
「代謝する!」「元気が出る!」「成長する!」が滞る状態といえます。

 

 

甲状腺機能低下症症状

□ 寒がり、冷え性になる
□脈が遅くなる
□体温が低くなる
□食事量は増えていないのに体重が増える
□物忘れが増える
□人格が変わり落ち込みやすくなる
□顔が腫れている
□髪の毛が抜ける
□皮膚が乾燥する。
□顔つきが変わり腫れぼったくなる。
□舌が肥大して喋り方が変わる。
□声が枯れる
□動作が鈍くなる
□眠たい
□筋力が低下する
□便秘がちになる
□ 運動しても汗をかかない
□子どもの成長が悪くなる
□月経が来ない、遅れる

このように、『元気がない』印象の症状がたくさん出てきます。
でも患者さんにとったら、これが症状とは思わず、おっしゃらないこともあります。

冒頭の患者さんは、今から思えば
このような症状を、ご自身なりの言葉で
私に伝えてくださっておりました。

粘液水腫昏睡とは?

さて、甲状腺機能低下症の合併症の中で
急ぐ病態として
粘液水腫という病態があります。

粘液水腫昏睡は
生命を脅かす甲状腺機能低下症の合併症です。
通常は甲状腺機能低下症の病歴が長い患者さんで生じます。
なんらかの感染、外傷、お薬ののみ忘れ、寒冷曝露がひきがねとなって

・意識消失
・極度の低体温症を伴う昏睡(24~32.2℃)
・痙攣発作
・呼吸抑制

などを起こすことがあります。
この場合は、一刻も早く救急搬送が必要です。

逆に、救急車で運ばれた患者様がこのような状態だと
「甲状腺機能低下症の合併症では?」と気づく必要がありますね。

あのまま冒頭の患者様が、お仕事が忙しく受診せずにこのような状態にならなくて良かったと心から思います。

 

甲状腺機能低下症の治療

基本的には
『甲状腺ホルモンの補充』
が治療になります。

おわりに・・・・

今日は甲状腺機能低下症がテーマでした。

患者さんは、たくさん症状があると
それぞれの症状が
今回の病気に関係があるのか、無関係なのか
どこまで医者に伝えるべきか
悩んでしまいますね。

我々医師は
そのおっしゃられることから
病気に関係するもの、今回は関係ないものを
取捨選択しながら鑑別を進めていきます。
ぜひ、「これ、関係あるかしら?」と思っても
いろいろぜひヒントをおしえてくださると助かります。

 

ちなみに甲状腺ホルモンは、基本的には一般採血では測定しません。

でも、一筋縄で説明できないような症状があったときに
あれ?甲状腺機能の問題かも?
と医師の頭によぎったときは採血させていただきます。

忘れた頃にやってくる・・・・・
甲状腺疾患。
いつでも、診察中に一度は『甲状腺の異常で説明がつくかしら?』という気持ちで
診察も挑んでまいりたいと思っております。

日々、たくさんの患者様に出会います。
今週一週間だけとっても
たくさんの出会いがありました。
みなさん、それぞれ素敵な方です。
中には色々悩みを抱えていたり
つらい状況であっても
それぞれご自身なりに懸命に今を生きておられるなと思います。
こちらをねぎらっていただいたり
たくさん笑わせていただいたり、ほっこりしたり。。
私はその出会いをすごくありがたく思っております。
いつも本当にありがとうございます。

 

あん奈