もし介護している方の「もの盗られ妄想」があなたに向いたら?それはきっとあなたが一番その方にとって身近な存在だからです。

さて、我々家庭医は、多くの認知症の方、そしてその家族を診て参ります。

そして、実に多くの介護者家族の方が
「認知症」の病態の理解し難さゆえに
お互いにストレスを抱え
お互いに傷つき
家族全体
場合によっては、ケアマネさんなどの支援者皆さんにとっての
大きな問題になっていることを目の当たりにします。

今日みなさまにお伝えしたいのは

もしあなたのの回りで
一所懸命に介護している相手から、『あんたが〇〇とったやろ!!!』と責められて
ココロが折れている方がおられましたら、このように声をかけてあげてください。

 

『それは、あなたが、その方にとって一番身近な方だからです!!!
本当に、日々頑張って介護されてましたね。
本当にお疲れ様です。せっかく介護頑張ってきたのにそんなふうに言われてびっくりしたし
悔しかったでしょう。でもそれが『認知症』の症状なのです。だからその人も自分も責めないでください。
一緒に方法を考えましょう!』と。

 

手を取る

なぜそんなふうに言えるのか紐解くには
認知症とは??ということを理解しないといけません。
手前味噌ですが過去のブログをご参照いただけたらと思います。

さて、介護者本人、場合によっては支援者が
認知症とはを正しく理解することが
介護者と認知症のある本人にとってとても大事なことです。

・もの忘れ(認知症)がある方との付き合い方①(そもそも認知症って何?)→こちら

・もの忘れ(認知症)がある方との付き合い方②(周辺症状って何?)→こちら

・もの忘れ(認知症)がある方との付き合い方③(いよいよ付き合い方について)→こちら

 

認知症 中核症状 周辺症状

 

どうしても

認知症の方というのは、「中核症状」があります。
中核症状があることが認知症の所以です。

盗られ妄想を認知症の方の目線で見てみます。

例えばお財布を、机の上から棚に自分で片付けた。
机の上に財布がない!(棚に直したことを忘れてしまっている。記憶障害)
いつも、自分の身近にいる娘の存在は忘れない(古い記憶は消えない)
残存として残っているのは家に出入りしているあの子の存在・・・
財布はあの子が持って行ったに違いない!(普通ならそう考えないのに 判断力の低下)

基本的に認知症の方は常に「不安」に陥りやすいです。
というのも
見当識障害がありますから。
今、自分がいるところはどこで、今が何年の何月の何曜日で
あれ?なんで旦那さんがいないんだっけ(亡くなったことは忘れている)
あれ?今日は仕事行かなくていいんだっけ?
なんでこんな知らない人と一緒にいるんだろう?(施設の場合)

想像してみてください。
確固たる自分、自分がここにいていい理由、自分が今いる日時に対する確証。
そういうことが常になく
常に、自分もそして他人も
疑心暗鬼の中で生活しています。

その中で本能的に自分を守ろうとするので
怖い物言いや怖い顔をしている人には立ち向かう(作用反作用の法則)

先ほどの財布がなくなったことも
おそらく、一所懸命介護している家族からしたら
盗んだなんていわれもないことを言われたら
「なんてこと言い出すのよお!ひどい!!」という想いから
「とってないって!!!!自分で無くしたんやろ!!!」と声を荒げてしまうかもしれません。

そうなると本能的に
認知症のある方からしたら
この子と話したらなんか「不快」だわ!!「怖い!」立ち向かわなくては!

というモードになって「盗んだ!返せ返せ!!!」と騒ぎ立ててしまう

そして家族は離れていく。。。
その不穏な感じに
認知症の方は
ますます不安になる。。。

という悪循環

どんなふうに付き合えば、、、、

一方で
中核症状がどんなに進んでも
「安心感」の中で生活している方は
あまり周辺症状が出ません。

先ほどのように財布を無くしてしまったとしても
穏やかな関係が確立していれば
不思議と「快」の刺激は覚えているので
そうだ!この人はいい人だった!この人に話すのなんか落ち着くんだった!
という人がいれば
「ねえ、財布が無いよ!ここに置いたと思うんだけど・・・」
と声をかけるでしょう。
認知症を理解している介護者は、きっと穏やかな声で
「あら、それは大変ですね。一緒に探しましょう。一緒に棚を開けてみましょう!あ!ここにありますねえ!よかったですね!!!」
とにこやかに解決してくれる。
そうやってまた
なんか分からないけど、この人はいい人だな。この人は怖くないし、、いいことをしてくれる。
今日は何月何日で、なんで旦那さんがいなくて、この人は誰かよく分からないけど
少なくとも逃げ出したりしなくてよさそうだな。

きっとこんなすんなり行かないこともありますけど
穏やかに暮らしておられるご家族をみていると
皆様、「その方の現実とはギャップのある世界を壊したりせず、大切にしてそのままにして」対応しているような感じです。その方が本人も混乱せずにうまくやっていました。

前に出会った家族で、こんな素敵な家族がいました。

実の娘をお手伝いさんと呼んでいる方がおられましたが
その娘さんも結構楽しく「はーい!!」と返事しておられました。
そのかたは昔、お手伝いさんがたくさんいる家で裕福な暮らしをされていたとか。。
関係性が間違ってても正したりせず
その関係性の中で穏やかなら良いと割り切って
むしろその「役」を楽しんで演じておられてすごく良い関係でした。

その方が穏やかに過ごすヒントは
その方の人生史を探るとみえるかもしれませんね。

愛のてわたし

やまもとよりそいクリニックでも
スタッフ一人一人が、プロとして認知症の方やそのご家族に対応できるように。。。

当院の理念の中には「正しい医療」というものがあります。

うちで勤めてくださっているスタッフは
地域の中に出ても「YYCのスタッフ」です。
もちろん家族の中においても

これからも家族の方から医学的なこと、認知症のことなど相談されたりするかもしれません。

クリニックスタッフが、看護師さんも事務さんも
しっかり正しい知識を持って対応できるように
この間は「認知症のレクチャー」を行いました。

認知症のレクチャー風景

 

このように
患者さんのことでスタッフとして知っておいた方がいいことが出てくるたびに
みんなで勉強会をして底上げして参りたいです。

ゆくゆくは私ばかりがレクチャーするのではなく勉強会がまわるように持っていくのが理想ですが。(笑)
こちらはおいおい・・・みんなで成長して参ります。

 

今日は認知症の患者さんの介護を
頑張ってらっしゃるご家族にエールを送りたくて。。。

あん奈