「今日は、(本当は)どうされましたか?」と聴くことの大切さ ドアノブクエッションとは?
今日はこんな事がありました。
(本人の特定ができないように少し詳細を変更しております。)
ワクチンのご予約に来られた80代の患者さん。
予約時に、受付スタッフさんに
「元気が出る注射をしてほしいんだけど。。。今日はせっかく来たんだから。。」
と声をかけられたそうです。
受付スタッフさんが、すぐその様子を私に伝えに来てくださいました。
うちは、いわゆる「にんにく注射」「白玉点滴」といった自費診療は行っておりません。
最初はその事だと思って、そのようにご説明するようにお願いしました。
すると、また受付スタッフさんがもう一度来られて
「なんでもいいそうなんです。なにか点滴をしてほしいとのことで。先生に相談したいそうで。。」
とのこと。。
すぐにカルテを診てみました。
すると、前回のワクチンの際にも、当日に
「怪我をしたので診てほしい」と
怪我の処置を私が行っている方でした。
カルテには
「近医、不都合時に受診。かかりつけなし?」と記載してます。
そのときにも、「元気が出る点滴に通いたい」「うちはやってないんですよぉ〜」
みたいな会話をしたことが書いてあります。
診察室にお呼びしてお話を聞いてみました。
はじめは、「夏には元気の出る注射をしたほうがいいと友達が言ってて。。」とのことでしたが
お話を聞いているうちに
実は、、、と切り出されました。
実は身寄りがなく、最近物忘れが激しく、急に不安になってきた。
この先どうなるんだろうと。
別にどこも悪くないので、かかりつけもいないし、
誰に相談したらいいかわからないし、
とりあえず点滴に通っておけばかかりつけと思ってくれるかしら?と思ってどこも悪くないけど、
「元気が出る注射」なら昔他院でしたことがあるし、、、病気なくても誰でもいいのかなと思って
と思って点滴と言ってしまったんだ。とおっしゃってくださいました。。。
会話の途中でなんども「恥を忍んで言います。」繰り返しておられました。
私も「恥ずかしいことではまったくないです。当然不安やと思います。」と繰り返し言いました。
「こんな事、クリニックに言うべきでないと分かっているんです。」
「病気もないのに厚かましい」
とも繰り返しおっしゃいました。
「いいえ、こういうこともクリニックでいいんです!!」
「よく教えてくれました。」
と私も繰り返し言いました。
前は「怪我を診てもらえばなんとかなるかも」とSOS出していたかもしれないのに
気づけなくて悪かったなあ。とも思いました。
そのまま地域包括ケアセンターにすぐ連絡しました。
地域包括ケアセンターの方は
明日早速自宅に伺ってくれることになりました。(いつも本当にありがとうございます。)
これから、介護保険の手続きを進めてくれるそうです。
★★以前のブログもよろしければご参照ください★★
要介護認定とは? 主治医意見書をチラ見せ!?します。→こちら
「今日帰りに市役所に行ってみよう思ってたんですが、どこに行けばいいかわからなくて。
でも、私は、待っておけば連絡が来るんですね?ここをかかりつけ医と言っていいんですね?」
と、何度も何度も念を押しておられました。
長いこと、検診などのヘルスメンテナンスもされていなかったので
しっかり内科診察も行いました。
今後、かかりつけ医として全体を把握しておくために何点か検査も相談して追加しました。
そして、検査結果を聞きに来る日を設定して
その日に同日にワクチンをするように予約を取りました。
患者さんは
ポケットからしわくちゃの小さな紙をだして、「ここに受診する日を書いてほしい」
とおっしゃられました。
その紙には、すでに「やまもとよりそいくりにっく」とか「市役所」という単語が走り書きで書き連ねてあってもう書くスペースもありませんでした。
その後、今日はワクチンの予約に来られたことを少し混乱して忘れてしまって
「あれ?そういえばワクチンの予約はどうなってたんかな??今日ってとったかしら?」とおっしゃっりました。
きっとこの紙をどこに置いたかもわからなくなってしまう確率が高いように思いました。
「こちらで用意した【予約表】にしっかり大きな字で書いておきますね。当日にワクチンもあるって書いておきますね。」
といいました。
おそらく、自分でも「最近物忘れが多い」という不安な時期に差し掛かって
すごく怖かったと思います。
自分なりに、いろいろ考えてだれに助けてもらえるのだろうと悩まれたと思います。
その上で、よく来てくださったと思いました。
何度も
「ありがとう。ありがとう。」と言ってくださり、
「こんな事してもらってお支払いはどうしたらええの?私はあまりお金がないのよ。恥ずかしいわ。」
と繰り返しおっしゃいました。
実際の保険診療の値段をお教えすると
「よかった!!それだけでいいの?ありがとう。ありがとう。次回また◯日にここに来るのね!
それで市役所行かなくても、待っていたら担当の人から電話くるのね。」
と帰り際にご自分の確認のために何度も声に出して確認しておられました。
今後かかりつけ医として
本人の生活史を紐解きながら
希望をお聞きしながら
人生のプランニングをして参る予定です。
今、予約表をみたら
事務スタッフさんが自主的に
「当日朝に、診療予約、コロナワクチン接種が在る旨連絡する!!」
とメモを残してらっしゃいました。
きっと何度も確認しておられたので、「大丈夫!こちらからまた当日もかけますね!」となったんだと思います。
手前味噌ながら、さすがウチのスタッフさんです。
クリニックは、病気のときだけ行く
とおそらく多くの方が思ってらっしゃると思います。
でも、この方のように、なんとなくどこにもかかりつけ医がない。という方もたくさんおられると思います。家庭医のクリニックでは
「介護、福祉」の相談もしかるべきところに繋げてまいるので是非、ご相談ください。
医療と福祉/介護は密接な関係があります。
両方連携しないと
当院のミッションである「安心して過ごせる地域」が実現しないからです。
なので、是非
かかりつけ医がいない
健康、福祉、介護に不安がある
というときは、どうぞ心を「楽」にしてご相談ください。
今日、この方に繋がれたこと感謝いたします。
また、「今日は、(本当は)どうされましたか?」をしっかり聴くことの重要さを実感した一日でした。
医師の間でよく知られた言葉があります。
「ドアノブ・クエスチョン」
患者さんが診察室を出る直前に、
ドアの取っ手に手をかけた状態で医師の方を振り向き、医師に聞く質問は
実は一番聞きたい質問だそうです。
ドアノブクエッション、「本当に来た理由」をしっかり聴き取って参りたいです。
あん奈