人生の最期を迎えるときの医療(ターミナルケア)についてお話します。⑥スピリチュアルな苦痛?

ターミナルケアのシリーズを続けております。
是非シリーズでお読みくださいね。

このシリーズのブログ

① 導入編→こちら

②   最期のときの3つのパターン→こちら

③ 全人的苦痛という考え方とは→こちら

④ そもそも緩和医療とは?→こちら

⑤ 死を受け入れるということ→こちら

スピリチュアルな苦痛ってどういうことか?

 

全人的な苦痛

さて、前回

③ 全人的苦痛という考え方とは→こちら
についてお話した時に用いた図をもう一度見てみましょう。

 

この中で、スピリチュアルな苦痛(スピリチュアルペイン)というところは
むずかしい概念だと思います。

村田 久行先生という方は、「自己の存在と意味の消失から生じる苦痛」と定義されていました。→こちら

今日はもう少しこのことを深堀りしたいと思います。

村田 久行先生は、
人間の存在を
・時間のなかでの存在(時間存在)
・周囲との関係の中での存在(関係存在)
・セルフコントロール、すなわち自律できる存在(自律存在)
によって成り立っている。

として、この存在が「死」によって脅かされることにより生じる苦痛を「スピリチュアルペイン」としています。

 

時間存在とは?

人は、「過去」と「未来」が当然あると思って、「今」を生きています。
それが、「未来」は存在しないと言われたら・・・・・・・・・
もしかしたら、「今」「過去も」無意味に見えてくるかもしれません。
「未来のない自分は生きていても仕方がない・・・」

これが、「時間存在」を傷つけられたスピリチュアルペインです。

→ケアとしては「今」「過去」の素晴らしさは何一つ変わらないことを一緒に確認していくことです。
簡単なことではないですが、「今」「過去」の中の幸せを一緒に再認識していきます。
「結婚したこと」「子供が生まれたこと」「がんばったこと」・・・・・・・・・
「今の闘病生活を妻が献身的に支えてくれる」「孫がかわいい」・・・・
幸福ややりがいを感じた事は、紛れもなく存在して消えないことを感じてもらえるようにライフレビューを行っていくことなどが効果があります。

 

関係存在とは?

死を前に、「自分は社会や家族にとって意味がない存在だ」と思ってしまうこと。
これが関係存在が脅かされて感じるスピリチュアルペインです。

特に入院中は、社会や家族からも隔絶されているので余計そう感じるかもしれません。

家族の役割は、いつどんな時も無意味になっていない事、家族内の役割は存在し続ける事を認識
してもらえるようなケアが必要です。
ご家族には、いつもと同じ呼び方で呼びかけてもらう事もとても意味があります。「お母さん」「あなた」「おまえ」・・・

 

コロナで会えないことを余儀なくされている昨今。
関係存在を如何にして失わせないか、課題の一つです。

もし、お仕事をされていて
本人が望まれるなら、病気であっても
リモートなど何らかの形でお仕事を続ける選択肢を応援するのも一つです。

 

自律存在とは?

「今日は何を食べよう?」「どこに行こう」「どの服を着よう」
当たり前のように、今まで自分の事は自分で決めてきたはずです。

それが病気になったら、、
「誤嚥するので食べたらいけない」
「転倒するので歩いてはいけない」
「この薬を飲まないといけない」

自分のことなのに、何一つ自分で決められない。「自律」できない。・・・・・・・・・
これが自律存在が脅かされた事によるスピリチュアルペインです。

なにか「選択」をするときは
選択の権利は「本人」にあります。
療養をどこでしたいか?
誤嚥して肺炎になって命を失ったとしても食べたいか?
おむつにするのか?尿道バルーンを入れるのか?

でもそのことは「医療」のことなので分からないという方がほとんどです。
そのために医療者は
患者さんに正しい知識を持ってもらい
自分で選択してもらうことをサポートします。

このためには、「告知」ということが色濃く関わってきます。
自分がなんの病気なのか?予後はどれくらいか?
それもはっきり認識した上での本人の選択や判断はとても大きな意味を持つと考えます。

私がこれまでお看取りした方で「自律」して最期を迎えた方は
ご自分の事を、すべて知ってらっしゃって
その上でいろいろお話してきた方がほとんどでした。

 

答えはひとつではない。迷って決めたら道はいつでも正解です。

ターミナルケアは
ただ単に体の症状を取ることだけではないこと。
ここまでのブログを通してなんとなくご理解頂けたかと思います。

こういった全人的な苦しみを
分かち合い
お一人お一人に起こっている問題を解決する方法を
その時のチーム全員で考えていきます。

教科書には、そのやり方、答えなど載ってません。
誰一人同じ解決策が通用しません。

毎回、毎回その方とご家族を中心にチームで一緒に手探りでやっていきます。
ターミナルケアは、だからこそとても深いのだと思います。
だからこそお一人お一人のドラマを
私は、いつまでも忘れることがないのだと思います。

あん奈

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