人生の最期を迎えるときの医療(ターミナルケア)についてお話します。⑦予後予測について
ターミナルケアのシリーズを続けております。
是非シリーズでお読みくださいね。
このシリーズのブログ
① 導入編→こちら
② 最期のときの3つのパターン→こちら
③ 全人的苦痛という考え方とは→こちら
④ そもそも緩和医療とは?→こちら
⑤ 死を受け入れるということ→こちら
⑥ スピリチュアルな苦痛?→こちら
予後の予測は必要?なぜ必要?
人生の最期を迎えるときのケアにとって
患者さんの生存期間を予測しすることは必要なのでしょうか?
私は、医療者側は把握しておく必要があると思っております。
それは、そのそれぞれの時期に応じて、
その時までに行っておくべき介入があると思っているからです。
そのためにいろいろな予後予測スコアが開発されています。
いろいろな予後予測のための指標
さて、では実際にどのようにして予後は予測するのでしょうか?
世の中には、いろいろな予後予測のための指標があります。
それぞれ特徴があり、向き不向きや簡便さに差があります。
一部有名なものをご紹介します。
順番は前後しますが、最期のときの3つのパターン→こちらに沿ってお話します。
こちらの記事も大変参考になりました。是非ご参照くださいね。
→ 終末期に「あとどのくらいですか」と聞かれたら|検証進む予後予測ツール
★がんの場合
2000年前後から、癌患者の予後を客観的に予測するための指標の開発が国内外で進み
現在よく使われているものとしては
PaPスコア(Palliative Prognosis Score)
PPI(Palliative Prognostic Index)
PiPSモデル(Prognosis in Palliative care Study predictor models)
などがあります。
PaPスコア
PaPスコアはイタリアで開発された指標で
特徴としては「主治医の主観的な予測」というものが入ります。
ここが、なんともはや・・・・な所と思います。
その他には食欲不振や白血球数など客観的因子も用いて予後を算出するスコアです。
Karnofsky Performance Scaleというのは、活動の目安ですが、以下のように点数が付きます。
このようにしてつけたPAPスコアは、合計得点から、以下のように予後が予測されます。
PPIスコア
一方、医師の主観を入れないスコアもあります。
経口摂取の低下、浮腫(むくみ)、安静時呼吸困難の有無、せん妄などの
患者の症状から予後を算出する、森田氏らが開発したPPIスコアというものです。
この項目内のPallative Performance Scale(PPS)の付け方はなかなか難しいのですが、左(起居)から順に見ていき、最も当てはまるレベルを選択します。
このようにして算出したスコアの合計で、かなりざっくりですが以下のように予後が予測されます。
PiPSモデル
そしてPiPSモデルは、英国で開発された最も新しい指標で、全身状態や血液検査所見など数十項目から予後を算出する。項目に血液検査所見を含まないA モデルと、含めたB モデルがあり、各項目を専用webサイト上に入力すると、「日単位」(14日以下)、「週単位」(15日から55日)、「月単位」(56日以上)で予後が計算できるとされています。
*各ツール間での比較*
これらのツールのなかで
やっぱり使いやすいのはPPIスコアです。
主治医の臨床的な予後予測という項目もないですし
採血も必要ありません。
実は、精度もそんなに悪くないとされています。
ただ、より精度を高めたければ、PaPスコアやPiPS-Bを使用した方がよいとされます。
また難点をもう一つ挙げるとしたら、
「せん妄」というのは、話のつじつまが合わず、寝ぼけている状態のことを指しますが、評価が難しいという特徴があります。
★心不全 呼吸不全の場合
心不全、慢性呼吸器不全の予後予測
次は心不全です。心不全の場合は、増悪寛解の波を描きながら機能が低下し死に至ります。
予後予測ツールとしては、Seattle Heart Failure Model、Heart Failure Risk Calculatorなどがあり、いずれもインターネットで使用が可能です。ただし、癌と比較すると精度は高くないとされています。
慢性呼吸不全も心不全と同様な経過をたどります。
ただ感染や急性増悪により急激な病状悪化をきたすことがあるため予後予測は困難です。
予後予測ツールとしてはBODE indexという24カ月死亡率、52カ月死亡率を予測するツールがあります。
実は、私はあまり使用したことがありません。
★認知症の場合
アルツハイマー型認知症の場合
認知症の程度のスケールとして、FASTスケールというものがあります。
ADL障害の程度により進行度を7段階に分類しており、患者の病気の進行度や,今後予想される症状について考えることができます。
米国ではホスピス入所の適応基準として利用されています。
私自身は毎回これらの予測ツール使って予測するわけではありません。
またこれ以外にもツールがたくさんあります。
実は、今回調べてみて初めて見たツールもあります。
私の場合は
食事が取れているか、全身倦怠感の程度、水分摂取の程度、歩けているか
などを観察して
予測することもよくあります。
そういうことを提唱しておられる先生方もたくさんおられます。
患者さんにどこまで伝えるのか
では、本人は予後をを知っておく必要があるのでしょうか
これは一概には言えないと思います。
ただ
今までの経験上
本人が自分のだいたいの予後をご存知で
覚悟され、納得されていた方というのは
すごく落ち着いておられ
最期まで自分で能動的に生きてらっしゃった方が多い印象です。
患者さんというのは、
具体的に残り何ヶ月残されているのか、そのものが知りたいというよりは
「来年の桜が見れるのか?」
「孫の結婚式に出れるのか?そこまで歩けるのか?」
そんな感じで把握しておきたい
自分のやっておきたいことを
いつまでにやっておかないといけないか?という心づもりされる方が多い印象です。
また
「今後こういった変化が訪れますよ」
と、先に医療者が指し示しておくことで
本人だけでなく、家族が安心して変化を受け入れていかれる方が多いように思います。
なので、私も患者さんの本人もですが
やはり家族に、こうなって、こうなって行くことが予測されます。
と詳しくお話するようにしてます。(これはまた別のブログに書きますね。)
もちろん、うつ病や認知症があったり
どうしてもこういう話題が苦手であるという場合もあると思います。
四角四面に、「絶対、予後やどうなっていくかを知っといてもらわなければ!」というわけではありません。
伝え方など工夫することもできますし
無理することもないと思います。
その方やご家族の様子や希望に合わせて
どこまで言うか、どう言うかは変えていけば良いと個人的には考えております。
ただ、特に救急の現場ではよくあることですが
「まったくもって予想もしてなかった死」
「本人も、家族にとってもまだまだ心の準備のできてなかった死」は、
ご本人やご家族のみならず
医療者にとっても
非常に心が痛むことです。
それだけは確かです。
まだ、続きます。
あん奈