よくある疾患シリーズ 〜甲状腺機能亢進症〜 その症状、甲状腺の病気かもしれません。Part2
こんにちは。
前回は、甲状腺機能低下症についてブログを書きました。→こちら
今回は、その逆である
「甲状腺機能亢進症」についてもお話したいと思います。
内容は甲状腺低下症の記事と重複する部分も多いので
両方読んでくださっている方は
対比をしてみたり
上手に読みとばしてくださいね。
(あえて同じ文章を使用しているところもあるので違い探しされると面白いかもです!)
さて改めて、甲状腺とは?から見て行きましょう。
●甲状腺とは?
甲状腺という臓器はご存知でしょうか?
聞き慣れない臓器だと思います。
甲状腺は、
首のところにある臓器で
『甲状腺ホルモン』というホルモンを出しております。
●甲状腺ホルモンって何をしているのでしょうか?
一言でいうと
『頑張るためのホルモン!』『元気が出るホルモン』
という印象でしょうか?
もう少し具体的に見てみると
甲状腺ホルモンは、大きく分けると次の3つの働きがあると考えられています。
●新陳代謝を盛んにする
脂肪や糖分を燃やしてエネルギーに変える作用があります。(体温を生み出します。)
● 自律神経のうち、交感神経の働きを活発にする作用があります。
自律神経の中には、交感神経と副交感神経があります。
簡単に言うと、交感神経というのは、運動会で走る前の緊張状態を思い出してみてください。
あの状況を作り出す神経というのでしょうか?
脈がドキドキ(頻脈)血圧が上がり、尿意はなくなり(トイレに行っている場合ではない?)・・・・
甲状腺ホルモンはそのような「頑張るときの」状態を生み出します。
●成長や発達を促進する
もう一つ、甲状腺ホルモンの大事な働きは
子どもたちの正常に成長、発達を促すという点です。
甲状腺ホルモンには、
● 4つのヨウ素を含むサイロキシン(T4)
● 3つのヨウ素を含むトリヨードサイロニン(T3)
の2種類があります。
甲状腺では主にT4が作られますが、肝臓などで活性型のT3に変換されることでホルモンとしての働きを発揮します。
●では、甲状腺ホルモンはどうやって分泌調整されているのでしょうか?
だいたいのホルモンがそうですが
甲状腺ホルモンの分泌量の調整は
脳でコントロールされております。
脳の下垂体から
甲状腺刺激ホルモン(TSH)というものが出て
甲状腺から甲状腺ホルモンを分泌するように促しています。
甲状腺ホルモンが不足してくると
『足りませんよ〜』というフィードバックが脳に働きます。(ポジティブフィードバックといいます。)
その結果脳(下垂体)からTSH(甲状腺刺激ホルモン)が増加して甲状腺を刺激します。
逆に、甲状腺ホルモンが何らかの理由で増えすぎると
『出すぎですよ〜』というフィードバックが脳に働いて
脳(下垂体)から出るTSHの分泌は抑えられます。(ネガティブフィードバックといいます。)
実はこの脳下垂体から出るTSHの分泌は
脳の中でももっと上位の中枢である
今度は『視床下部』というところから出る
甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)によってコントロールされています。
内分泌の疾患というのは
このように
ポジティブ/ネガティブフィードバックを受けながら
適正な量のホルモンを各臓器から放出するシステムのどこかが
不具合を起こす疾患です。
●甲状腺の病気にはどんな物があるのか
さて、ざっくりいうと、この甲状腺から出る甲状腺ホルモンが
・出すぎていたら→甲状腺機能亢進症 →今回はこちら
・出なさすぎていたら→甲状腺機能低下症
という状態です。
でもこれは『状態』を表しているだけでその理由は様々です。
甲状腺機能亢進状態を起こす疾患は?
上記のように
甲状腺の機能亢進症(状態)を起こす疾患は様々です。
・バセドウ病
最も多い原因です。自己免疫疾患の一つで自分で自分を攻撃してしまいます。
ただ攻撃して甲状腺自体を破壊する橋本病とちがうのは(→こちら)
バセドウ病の場合は、自己抗体によって甲状腺を刺激するため
たくさん甲状腺ホルモンが作られて分泌されてしまいます。
・中毒性多結節性甲状腺腫(プランマー病)
甲状腺に、たくさんの腫瘤ができ、その腫瘤が甲状腺ホルモンをたくさん分泌します。
・(亜急性)甲状腺炎
甲状腺に炎症が起きると、一過性に甲状腺ホルモンが壊れた組織からドバっと出ます。
ウイルスによる甲状腺炎を「亜急性甲状腺炎」と呼びます。
一度炎症を起こすとその後は、続いて甲状腺機能低下症に移行することもあります。
・薬剤性
一部の薬で甲状腺機能が亢進することがあります。
・下垂体機能亢進
上記のところで説明した、調整の上流の部分で機能が更新してしまい甲状腺過剰賛成が起きることもあります。
これはまれな病態で頻度は少ないです。
甲状腺機能亢進症の診断
さて、診断はどうやってつけられるのでしょうか?
基本的には
『採血』で診断がつきます。
・甲状腺ホルモン
・TSH TRH
・炎症反応
・自己抗体
などを調べていきます。
上記のように、甲状腺機能低下症を引き起こす疾患は様々ありますので
その鑑別のためには
甲状腺のエコーを行ったり
脳を調べたりすることもあります。
甲状腺機能亢進症の症状
甲状腺ホルモンはたくさんの働きをしているので
出過ぎでも、出なさすぎでも
本当に多彩な症状が出ます。
簡単に言うならば、甲状腺機能亢進症は
常に体が全力疾走状態というような感じです。
□動悸
□不眠
□高血圧
□手が震える
□暑がり
□汗をたくさんかく
□月経異常
□甲状腺が大きくなる
□食欲亢進
□体重減少(ただ、食欲が旺盛になるので増加することもあります。)
□便通異常(軟便 下痢 頻回な便)
□甲状腺の痛み→甲状腺炎の場合
□目が大きくなる(突出してくる)→バセドウ病
□ものが二重に見える→バセドウ病
□光が眩しい
●バセドウ病で目が大きくなる理由
①まぶたや眼球の後ろの組織に炎症が起こり腫れる
②眼球周りの脂肪が増え、眼球が前へ押されて出てくる
などの原因が挙げられています。
★注意点
・高齢者では
このような特徴的な症状が現れず
虚弱、錯乱、引きこもり、抑うつ
といったことが前景に出ることもあるので要注意です。
・またお子さんの場合も
精神的な不安定さ、不眠、集中力の低下などから
成績が低下して気がつく事もあります。
甲状腺ホルモン過剰による気をつけたい特殊な病態は?
さて、甲状腺機能低下症の記事では
急ぐ病態として
粘液水腫という病態があるという話をしました。→こちら
甲状腺機能亢進症の方も気をつけたい特殊な病態があります。
甲状腺クリーゼと甲状腺中毒性周期性四肢麻痺を紹介します。
●甲状腺クリーゼ
コントロールのついていない甲状腺機能亢進症の方が
強いストレス(外傷、感染症、手術など)を受けたときにおこる
甲状腺中毒症状(甲状腺ホルモン分泌過多)を「甲状腺クリーゼ」と呼びます。
「多臓器不全の状態」が起こり命の危険があります。(致死率10%以上)
症状は
・意識障害
・発熱(38度以上)
・頻脈(1分間に130回以上)
・下痢などの胃腸の症状
・心不全
が急に起こります。
甲状腺機能クリーゼを起こさないためには
早く診断をつけて、速やかにコントロールが必要とも言えます。
そして、診断がついて加療が始まったら、途中で自己判断で内服を中止しないようにしましょう。
投薬を止めてしまうと、甲状腺クリーゼが発症しやすいです。
甲状腺クリーゼの多くが、薬の服用を勝手に止めてしまったり、服用を忘れてしまった場合に発症しています。
●甲状腺中毒性周期性四肢麻痺
もう一つ、特殊な病態を紹介します。
甲状腺機能亢進症の方が、
暴飲暴食(特に炭水化物やアルコールの大量摂取後)や激しい運動をした翌朝などに
手足が動かなくなることがあります。
この病態を甲状腺中毒性周期性四肢麻痺と呼びます。
これは血液中のカリウム(K)という電解質の急速な低下が原因で生じるものです。
日本を含む、アジア人の男性に多い病態です。
この状態を契機に甲状腺機能亢進症に気がつくこともあるので
覚えておきたい病態です。
甲状腺機能亢進症の治療
上記の様に、甲状腺機能亢進の原因、理由は様々ですので
それぞれの病態に合わせた加療になります。
・飲み薬(抗甲状腺薬)による治療
・放射性ヨードによる治療
放射性ヨードは甲状腺に取り込まれ、β線を出します。このβ線により甲状腺の組織を破壊する治療です。
・手術による治療
おわりに・・・・
今日は甲状腺機能亢進症がテーマでした。
甲状腺機能亢進症の治療をせず放置すると、どうなるのでしょうか?
・心不全になる
・骨粗鬆症になりやすい(骨も代謝し続ける)
・甲状腺クリーゼになる
・妊娠や出産に影響が出る
・集中力がなくなり学業に影響が出る
このように、甲状腺機能亢進は
「今」だけでなく「今後そのままだった場合に起こり得る病態のコントロール」
という重大な事が関わってくるため
早期に発見して治療につなげる必要があります。
そういう意味では
開業医は
多彩な症状の中から
「これは??」というものを引き上げるという大事な責務があります。
ちなみに甲状腺ホルモンは、基本的には一般採血では測定しません。
でも、一筋縄で説明できないような症状があったときに
あれ?甲状腺機能の問題かも?
と医師の頭によぎったときは採血させていただきます。
忘れた頃にやってくる・・・・・
甲状腺疾患。
いつでも、診察中に一度は『甲状腺の異常で説明がつくかしら?』という気持ちで
診察も挑んでまいりたいと思っております。
あん奈
参考過去ブログ
・よくある疾患シリーズ 〜甲状腺機能低下症〜 その症状、甲状腺の病気かもしれません。→こちら