マルチモビディティ(multimorbidity:多疾患併存症)という考え方について
こんにちは。
今日はマルチモビディティ(multimorbidity:多疾患併存症)という考え方についてご紹介したいと思います。
お聞きになったことはあるでしょうか?
先日、私の所属する、日本プライマリ・ケア連合学会の第20回秋季セミナーが開催されました。
私は一つのセッションのファシリテーターを担当していたり
当日は少しバタバタしておりましたので
後日のオンデマンド配信をすごく楽しみにしておりました。
複数ある楽しみにしていた配信の一つに
『マルチモビディティをバランスよく見るための妄想力を鍛えるカンファレンス(通称 マルモカンファレンス)をやってみよう!』
という南砺市民病院の 大浦 誠先生が中心となってやっておられるセッションがありました。
大浦 誠先生は福井大学医学部卒業の先生で
私が福井にいた時の知り合いの先生です。
当初から本当に、勉強熱心、教育熱心な先生で
どんどん、ご立派になられ
今プライマリ・ケア学会において
先生をご存知ない先生はおられないくらいの有名人です。
そして私の尊敬する先生のお一人です。
たくさん著書もあり
いろいろな活動、発信をされていますが
力を入れておられる活動の一つに
今日ご紹介しようと思っている『マルチモビディティ』を
バランスよい診方(通称:『マルモの診方』)を
医師のみならず多職種の方々に布教する活動があります。
ケースで学ぶマルチモビディティという連載を医学書院から出しておられ大変勉強になります。
インターネットから見れますので深く学びたい方はぜひこちらを参考になさってください。→こちら
さて、私は、と言いますと
お恥ずかしながら
たくさん、勉強会など参加機会はありましたのに
何故かついつい、ずるずると参加しないまま今にいたり
若い先生方や多くの職種の方々が勉強会に参加して行かれる中
ついには『参加したことない』と言いにくい状況になっており
実はとても気になっておりました(笑)
果たして・・・・
本来のカンファレンスと比べたら『縮小版』のオンデマンド配信でしたが
それでも
一緒にカンファレンスに参加しているような
深い学びを味わえました。
見終えて、『おおーー』と声を最後に
思わず漏らしてしまうようなそんなセッションでした。
その旨を早速
大浦先生にもお久しぶりにご連絡させていただいたほどです!(笑)
そして、ちゃっかり
今回のブログで先生のお話を記載すること、先生の図解を引用させていただくことをご快諾いただきました。
前置きが長くなりましたが
このブログでは
ほんのさわりだけになりますが
『マルチモビディティとは?』についてご紹介したいと思います。
マルチモビディティ(multimorbidity:多疾患併存症)
とは?
さて、やっと本題です。
さて、マルチモビディティ(multimorbidity:多疾患併存症)とは何でしょうか?
Boyd CM, Fortin M. Future of Multimorbidity Research: How Should Understanding of Multimorbidity Inform Health System Design? Public Health Reviews. 2010;32:451-74.から改変
マルチモビディティ(multimorbidity)とは
日本語に訳すと「多疾患併存」となります。
これは2つ以上の慢性疾患が併存している状態を指します。
上の図をみてみてください。
例えばこんな方を想像してみてください。
72歳女性独居。中年期より高血圧と糖尿病があって内科に通院していた。
目が見えにくく、眼科で白内障と言われており、たまに皮膚が痒くて皮膚科にも行く。
歯が悪く歯科も虫歯のたびに通院している。
最近膝が痛く(両側膝関節症)整形外科に通い始めた。そこで骨粗鬆症も発覚し内服も始まった。
夫が亡くなり独居になったけど子どもたちに迷惑をかけれないからと
食事を気をつけたり、膝が痛くてもなんとか健康を保とうと運動も頑張ってたのに
ある日倒れ、救急搬送となった。『脳梗塞』の診断を受けて脳外科に入院となった。
幸い麻痺は軽く、退院して自宅で生活しているが、気分的に落ち込んで最近眠れない。
先の事を考えると食事も美味しいと感じられなくなってきたので、心療内科(精神科)に相談に行くと
うつ病との診断であった。
というような方がいたとします。
わりとよくある症例だと思います。
病名でいうと、高血圧、糖尿病、白内障、皮脂欠乏症、智歯周囲炎、両側膝関節症、骨粗鬆症、脳梗塞、うつ病
この状態がマルチモビディティ(multimorbidity:多疾患併存症)です。(図の左)
良く似ているけど、区別しておいたほうがよい用語に
コモビディティ(comorbidity:併存症)というものはあります。
例えば、糖尿病という病気は
「目」 (糖尿病性網膜症)
「神経」(糖尿病性神経症)
「腎臓」(糖尿病性腎症)
という合併症をきたします。
これは中心に糖尿病があって、そこから派生したものです。(図の右)
この状態はコモビディティ(comorbidity:併存症)といいます。
コモビディティは、糖尿内科の先生がまるっと診てくださることが多いですが(眼科と併診で)
マルチモビディティの場合は関わる医師が複数いることで、結局、誰が「核」となる主治医なのか分からない
なんてことがあります。
この症例の方は今後は内科、整形外科、眼科、皮膚科、歯科、脳外科、診療内科(精神科)に今後通院していくことになるのでしょうか?
マルチモビディティの場合・・・
主治医はだあれ?
さて、先程の例の方・・
内科、整形外科、眼科、皮膚科、歯科、脳外科、診療内科(精神科)と
通院するのは、大変ですよね。
病院通いだけで1週間が終わってしまいそうです。
それでも、それぞれの科がきっちり連携できていれば問題ないのですが
通院する科が多くなればなるほど
それぞれの科の連携は難しくなります。
また、それぞれの科は
それぞれの診療ガイドラインを遵守して診療していたとしても
合わせるとどうしても多くの薬を飲むことになったり
朝食前後、昼食前後、夕食前後、就寝前なんて内服するのは
現実的に実現不可能だったり。。
骨粗鬆症のお薬によっては内服後に一定座っておかないといけないものも・・あったりして
それぞれの疾患のガイドラインの単なる足し算ではうまくいきません。
やはり
マルチモビディティ(multimorbidity:多疾患併存症)は
マルチモビディティとしての診方が必要そうです。
さて、ちなみにこの方の主治医は何科の先生なのでしょうか?
この方の場合は、『内科』の先生が主治医になってくださって
『かかりつけ医』として核となってくださるのが一番いいような気がします。
もちろん、「専門的な」部分は
専門医の先生に任せるのが一番です。
『核』になる『かかりつけ医』の先生は
この方を本人のみならず、本人を取り巻く環境をよく把握して
自分で診ていくものと
お任せしていく部分に分けながらも
全体を見通すような役割になっていただけると理想的です。
(参考過去ブログ)
・総合医と専門医はどっちも大切。患者中心の医療。そして、セッティングによる違いも。→こちら
やはり、マルチモビディティの患者さんは
特別な診方があるようです。
それではどうやって・・・?
マルチモビディティの患者さんを診るのは
それぞれの診療ガイドラインを遵守し
たくさんの疾患があればそれぞれ足し算していけばよいというような
単純なものではありません。
そこで大事になってくるのが・・・・・
「マルチモビディティをバランスよく診る」
というスキルです。
大浦先生達が布教してくださっているのは、その「診方」のスキルになります。
(参照)
これがこのブログの本題となるわけですが。。。
今日は、本当にその入口だけ説明したいと思います。
ぜひご興味有る方は、マルモカンファレンス、色々なところで開催してくださっているので
ぜひ参加してみてください。
STEP1 ・ 問題点を仕分けし『見える化』しグループ化する
さて、様々な問題が複雑に絡んでいる場合
その問題を書き出して
さらに項目ごとにまとめてみるとスッキリします。
並べてみてみることで見えるものがあります。
たとえば
この科が出しているこの薬の影響で、この症状が出ていて、
それに対して更にこの科から薬が出ているぞ!
みたいなことです。
もちろん医学的なことだけでなく
まとめてみてみると
その方を取り巻いている環境の中にも
問題解決策のヒントがあったりします。
STEP2・バランスが大事!
大浦先生によると
『マルモはバランスで考えること』が大切とのことです。
医学書院【第一回】マルモの診かた総論 大浦誠先生→こちら
患者さんのできそうなことを増やし
一方で患者さんの治療の負担を減らす
という目線が重要だということです。
この目線で診るためには
病気をだけを診ていてはわからないことがたくさんあります。
その患者さんに起こっていること
その患者さんを取り巻いていること
すべてをなるべく総合的に理解する必要があります。
この考え方は、家庭医の考え方とすごく親和性があります。
また医師だけでなく、関わる看護師さん、ケアマネさん、ヘルパーさんも同じ目線でいてくださると
きっと本当にその方に合った「ちょうどよい介入」を見つけることができますね。
(参考過去ブログ)
・疾患と病 かきかえ? なんで先生は、そんなことまでいろいろ聴くの???→こちら
STEP3 ・ちょうどよい介入をさぐる
さて、色々な問題点を『見える化』しまとめ
バランスを考えていざ!介入!する場合
『ちょうどよい介入は、この方にとってはどれくらいか?』というところを
探る必要があります。
これは、算数の『足し算』『引き算』『掛け算』『割り算』になぞらえるとわかりやすいとされています。
・『足し算』→まずは、もれなくこの方にやったほうがいいことを、できるできないに関わらずあげてみます。
・『引き算』→やりすぎかな?と思うものは引いてしまいましょう。
・『掛け算』→「これができたら一気にコレとコレとコノ問題が解決する!」という介入ポイントを探ります。
(例)介護保険を取得する など
・『割り算』→複数の問題を小さくまとめる方法を考える
(例)総合内科で、内科、整形外科、泌尿器の薬は一括して処方するなど
マルモのトライアングル
さて今まで述べてきたことを
大浦先生はマルモのトライアングルとすっきりまとめてらっしゃいます。
これに沿って考えていくのが上手な
マルチモビディティ(multimorbidity:多疾患併存症)の診方
となると思います。
医学書院 [第20回] マルモのトライアングルを使ってカンファレンスをしてみよう 大浦 誠先生 → こちら
マルチモビディティ(multimorbidity:多疾患併存症)は
多職種でアプローチした方がいい。
さてマルチモビディティ(multimorbidity:多疾患併存症)
の勉強会は、医師だけでなく、多くの職種、時には医療職ではない方もたくさん出席されています。
マルチモビディティを診ていくと
医師だけではどうしようもない問題をたくさん抱えておられることがあります。
独居の問題・・・
金銭的な問題・・・
心理的な問題・・・・
多職種があつまって
ケースを見直すことで
医師や看護師といった医療職だけでは
思いもよらなかったアイディアが生まれてくることもあります。
ぜひ、複雑な症例こそ
その方にまつわる
多職種で集まって相談できると良いと思っております。
ときには本人やご家族と一緒に考えてもいいのかもしれません。
終わりに
さて、今日は
マルチモビディティとは?
のさわりだけご紹介しました。
ご興味の有る方はぜひ、勉強会なども参加されて
現場での一体感、満足感につつまれる感動を味わってみてください。
開業して
忙しい日々を送っておりますが
やはり忙しくても勉強会に出席することで
明日への診療の活力が湧いてくることを思い出させてくれる会でした。
これからも時間の限り
様々な勉強会などに参加して
クリニックに持ち帰ろうと思います。
大浦先生始め、ご準備いただいた講師の先生方ありがとうございました。
あん奈
参考過去ブログ一覧
・総合医と専門医はどっちも大切。患者中心の医療。そして、セッティングによる違いも。→こちら
・疾患と病 かきかえ? なんで先生は、そんなことまでいろいろ聴くの???→こちら