痛い場所が悪いとは限りません。腹痛の原因が「背骨のせい!?」だなんて!!!

はじめに

こんにちは。10月ももう終わり、 ようやく涼しい日が出てきました。
夜中や明け方には、寒いと感じるときもあるので この気温のアップダウンに体調を崩してないでしょうか?  

さて当院は、プライマリ・ケアのクリニックですので(プライマリ・ケアについては下記をご参照ください。)
「この症状って何科に行けばよいでしょうか?」 というご相談もよくあります。

そうですよね。
何科に診てもらうか ・・・
難しいですよね。。。。
実は、これって医師にとっても、結構難しいんです。

何科にいくかが分かるということは
言い換えると、
ある程度、原因となる「疾患」「特定の臓器」「病因」に目星がついているということですが・・・・
中には トリッキーな原因もあります。
痛い場所が悪いというわけでは決してないからです。

もちろん患者さんが
ご自身で科を決めて
「自分で〇〇が悪いと思うので 」と思った科を受診されるのは
全然問題ないです!!

でも総合内科医師からの専門科医へ紹介となると
ある程度
「〇〇を疑うので〇〇科で〇〇という検査をしてもらえないか?」
みたいな「あたり」をある程度付ける必要があります。

お腹が痛いから→腸!→消化器内科!
みたいな簡単なものではなく
お腹が痛いのに、原因は「腰!?」みたいなこともあるので
なかなか科を決めるというのも難しいことだったりします。

今日は、そんなトリッキーな腹痛のひとつを紹介します。

胸椎椎間板ヘルニアで、腹痛???

椎間板ヘルニアという言葉を聞いたことがありますか?

ヘルニアと言う言葉は、「飛び出す」という意味なので、
同じヘルニアでも飛び出しているものによって全く意味合いが違います。

たとえば 腸ヘルニアならいわゆる「脱腸」のことです。
そして今回の話題は「椎間板」ヘルニアです。
これは、背骨の骨と骨の間のクッションのような役割をしている 「椎間板」が飛び出しています。

椎間板ヘルニア

脊椎(背骨)の後ろには、この絵のように神経が走っています。
飛び出した椎間板が
神経(正確には、神経根)にあたると
その対応した部位が痛い、しびれるなどの症状があります。

(注:実際には飛び出す場所により神経のどの部分を圧迫するかで症状は異なります。神経根だけをきれいに圧迫するという場合だけでなく、脊髄そのものを圧迫することもあります。このブログではわかりやすくするためにこのように簡略化して記載させていただきますね。)

背骨に問題があるのだから腰痛!と一筋縄にいかないものですねえ。
飛び出した部位によって様々な症状が出ます。
もう少し詳しく見てみましょう。

まず、背骨には頚椎、胸椎、腰椎があります

下の図のように背骨には
頚椎、胸椎、腰椎があります。

この中で、今回の主役の「胸椎」ヘルニアは比較的稀です。


そして、症状が多彩なので
内臓の疾患???
と思われやすいという特徴があります。

なんでそんなことが起きるのでしょうか?

背骨

 

そもそも、感覚は、どうやって「脳」で、感じるか?

感覚というのは 
例えば、左の手のひらなどの感覚を感じた部位から
末梢神経を介して、神経根という束になって
脊髄へ伝えられ
最終的に延髄⇒中脳⇒視床⇒大脳皮質)へ 伝達されます。  

そして、脳で「左の手のひらが痛い!」と感じるわけです。  痛みの伝わり方

 
 
神経根とは、神経の本幹である脊髄(せきずい)から左右に枝分かれしている細い神経のことです。
この神経根は、椎間孔(ついかんこう)という背骨の両側にある穴をぬけて
背骨から出たあとはもっと細かな末梢神経と呼ばれ各所に分布していきます。
 
痛みの伝わり方から言うと
末梢神経が集まって神経根となり、椎間孔を通って、脊髄に合流するといったほうが正しいのかもしれません。
椎間板ヘルニアで、飛び出した椎間板によってこの神経根が圧迫されると
その対応部位がしびれたり痛みををきたします。(神経根症状といいます。)
 
 
 
 
神経根の説明
神経根圧迫の模式図

●デルマトームとは(対応部位)

神経根は、どの部位の(高さ)の脊髄に入っていくか下の地図(デルマトーム)で決まっております。
なので症状のある部位がどこかのデルマトームに一致していれば
どの高さの脊髄と脊髄の間の椎間板が飛び出ているのかある程度類推できます。
このような地図のようなものを参考にしてどの部位が障害をうけているか調べていきます。

  デルマトーム   日本終末期ケア協会→こちら
 
 
 
 

【参考】●頚椎症性神経根症と手根管症候群の鑑別 

注:繰り返しになりますが、もちろん胸椎椎間板の飛び出し方によっては、このような神経根性の疼痛に限らず、脊髄そのものを圧迫してしまうのでもう少し、複雑な多彩な症状が出ます。

 

さて、ここで具体例を。
胸椎(TH)9の背骨と胸椎(TH)10の背骨の間の椎間板が
飛び出ていたらどうなるでしょうか???

さて、ここで胸椎の9番目の骨と10番目の骨の間の椎間板がヘルニアを起こしている場合を想定します。
そして、ここでは仮にTh10という神経の神経根をそのヘルニアが圧迫したとします。(実際には神経高位の決定は少しむずかしいです。)

すると、どうでしょうか?
上記のデルマトームを参照にすると
上記の絵のTH10 の部分に違和感を感じるはずです。
上記のTH10 の場所をもう一度見てみて確かめて見てください。

TH10と関係している部位は、背中もあるけど
一部、おなかではないか〜!!!!

と思いませんか?

このように
胸椎ヘルニアでは
肋間神経痛というような感じで来たり
腹痛できたりと
「悪いのは内蔵かしら?」と思うような症状で来ることがあります。

大事なことなので、反対からもう一度いいますね。

ここで大事なのは

上記のことを言い換えると
図のTH10の部位の疼痛
つまり「お腹が痛い」という症状で受診されても
腹部を調べてもなにもないときに
痛みの原因は
実は、お腹ではなく
「胸椎ヘルニアかもしれない!?」ということです。


もし胸椎ヘルニアを疑ったら、
 受診する科を決めるとしたら 「整形外科」となります。
「腹痛で整形外科!?」 ってびっくりされると思います。  

でもこういった理由で
この場合の腹痛は
「一度整形外科で胸椎MRIを撮像してもらいましょう。」

という紹介になります。

 

同じようなことは頚椎の病変で、「胸痛」なんてことも。。。

同じように、狭心症のような
「胸が苦しい!なんか気持ち悪い」
という症状で受診されても
心電図や心エコーや採血なんかで「心臓の病気」は否定的で
レントゲンや胸部CTでも「肺の病気」も否定的なんてときに
もしや、「頚椎のヘルニアが胸痛の原因なのでは?」なんてこともあるのです。

(もちろん、心臓や肺など命に直結する疾患を調べる必要がありますが。)

 

難しい・・・・じゃあどうやって診断をつけるのか?
やっぱり、丁寧な問診が鍵。問診のOPQRSTについて

このように
腹痛の原因が腰椎ヘルニアだったり
胸痛の原因が胸椎ヘルニアだったり
難しいですよね。。

では
どうやって医師は原因を突き止めるのか?(鑑別しているのか)

それはやはり丁寧な問診が欠かせないと思います。
私の恩師の先生は、「再現ドラマが創れるくらい詳細に問診をとりなさい!」と教えて下さいました。

丁寧な問診

 

以前に「問診のOPQRSRT」というブログを書きました。→こちら

Onset:発症機転 「いつから始まったか?」

Palliative&Provoke:寛解・増悪 「どんな時に良く/悪くなるのか?」

Quality&Quantity:性状・強さ 「(例えば痛みなら)どんな/どれくらいの痛み?」

Region:部位 「どこが痛くなる?」

Symptoms:随伴症状 「他にどんな症状がある?」

Time course:時系列 「最初はどうで、それからどうなって、今は?」

こうやって系統だって問診をすることが
一番大切だと思います。
自分の頭の中で、リアルにそれが再現できるように。。。

例えば
今回の話題の脊椎由来の胸痛や腹痛は
「体動」や「姿勢」で悪くなる/良くなる
というのが特徴です。

それがヒントです。

座って前かがみになる姿勢は
椎間板の内圧が高くなる姿勢です。

「座って前かがみになると痛みは増しますか?」
患者さんに協力してもらいながら
原因を探っていく必要があります。

 

前かがみ

 

余談ですが
私は感情移入型?なので(憑依型と言われることも。。。)
だんだん自分で問診を取っているうちに
リアルに
自分も体現できてくるというか、、、同じように痛くなってしまうときがあります。(笑)
これは、困ったものです。直したいです。。(笑)

でもやはり
もちろん腹痛という主訴で来院したら
やっぱりまずは
王道の「お腹を調べる」ということからやっていけばよいと思います。

ただ、やはり 「お腹が痛い!」という主訴で来たら。。。
やっぱりお腹を先に重点的に調べる。
というのは間違いではないと思います。
いきなりトリッキーな「胸椎ヘルニア」をさっと鑑別にあげるのではありません。


問診からすごく疑う場合や
お腹をアレコレ調べてみても何もないとか そういったエピソードがあるときに
「もしや??」という感じでいつでも
挙げられるように頭の片隅においておけばよいと思います。

おわりに・・・

さていかがだったでしょうか?
「〇〇科に行く」というのは
突き詰めれば突き詰めるほど
なかなか奥深いものです。

また、紹介、コンサルトするときは病気だけでコンサルト先を決めているわけではありません。

この患者さんは、この病院の方が合うかな?
この病院には〇〇という特徴があるからこっちの方が良いかな?
この先生なら。。。。
何曜日のこの時間だから
この方は独居だから、、、
など「病気」だけで割り振るのではなく
さまざまなことを考えて実はご紹介しております。

クリニック→病院

 

 

私が本当にお世話になった
福井大学総合診療部、救急部では
初療後に、他科コンサルトをして最終の治療方針を決定することが日常茶飯事でした。


例えば交通事故などで多彩な病態があるとき
どちらの科に先にコンサルトするのか?
丸投げではなくて、どこまで調べて、詰めて、どのようにコンサルトするのか?
その科での病気が否定されたときに次の一手はどう進むのか?

そのようなトレーニングを
毎日毎日上級医の先生が指導してくださいました。

いま、全然場所もセッティングも違えども
その時に、いろんな場面で教わったことがとても役に立っていて、自分でもびっくりします。


今、玉出の片隅で「やまもとよりそいクリニック」として開業してから
その時のスキル、ノウハウを要する場面が多々あることを感じています。

せっかく、今までたくさんの方々に支えていただき
医師になったのですから
せめてもの、恩返しとして(というか自分がやらないといけない事として)
総合診療、家庭医のはしくれとして
今日も、明日からも
患者さんに問診に協力してもらいながら
可及的に、患者さんの悩んでいる症状に向き合ってまいりたいと思います。
これからもよろしくお願いいたします。

あん奈良

  過去の参照ブログ

●プライマリ・ケアについて ご興味のある方は、下記からまとめてどうぞ。

【過去の記事】

・プライマリ・ケアのACCCAという考え方①今日は一つ目のAを少しだけ→こちら

・プライマリ・ケアのACCCAという考え方②さて今日は一つ目のAの続きをば。→こちら

・プライマリ・ケアのACCCAという考え方③ まだ一つ目のAについて。→こちら

・プライマリ・ケアのACCCAという考え方④ 遂に一つ目のA終了です。→こちら

・プライマリ・ケアのACCCAという考え方⑤ C(包括性)について→こちら

・プライマリ・ケアのACCCAという考え方⑥ 2つ目のC(協調性)について→こちら

・プライマリ・ケアのACCCAという考え方⑦ 3つ目のC(継続性)について→こちら

・プライマリ・ケアのACCCAという考え方⑧ 遂に最後のA(責任性)について→こちら

●その他

・問診のOPQRST!(医師に何を伝えればいいのか?)【2022.7.13更新】→こちら

問診のOPQRST!(医師に何を伝えればいいのか?)【2022.7.13更新】